『長春香』内田百間

関東大震災で亡くなった優秀なドイツ語の女学生長野初を、死後12年たってあらためて追悼した表題作ほか、漱石、芥川をはじめ、多くの人の死に揺り動かされた鋭敏な心声が、帰り来ぬかけがいのない人を愛惜する。百間文学を初めて現代かなづかいにしたアンソロジー

一度読んだことがあると思いつつ、どうやら一度借りてきて読んだものの、途中までしか読めなかったらしく、途中から知らない話がぽろぽろと。
どれも百間の周りの「死」にまつわる話だが、だれそれが死んでしまって悲しいという気持ちがほとばしっているのではなく、若い人々に先立たれて呆然としてしまっている様子がしみじみと伝わってくる。
百間は、ユニークな随筆もよいのだが、こういうひっそりとした随筆で意外と威力を発揮するのではないかと思った。